遺言書があれば・・・

相続に関係するお仕事をしていると、「遺言書さえあれば・・・」と思う場面に出くわすことがあります。
どのような場合でしょうか?
たとえば、私が業務を行っていた直面したケースとして、
【ケース1】行方不明の相続人がいる
【ケース2】相続人の一部が海外にいる
【ケース3】相続関係が複雑(相続人が大多数いる、相続人の中に亡くなられた方がいる、など)
【ケース4】相続人の判断能力の低下
【ケース5】遺産分割協議がまとまらない

というものがあります。
遺言書があれば、このような問題に直面するリスクを軽減させることができます。
 
遺言書があれば、どのような問題に対処できたのでしょうか?

遺言書がない場合の相続手続き

まず、遺言書がない場合の相続手続きは、通常次のとおりに行います。

1.相続人の確定
亡くなられた方(以下、「被相続人」といいます)の出生から死亡するまでの、すべての戸籍を取得して、相続人を割り出します。

2.相続財産の確定
被相続人の財産(遺産)を調査します。現金・預貯金、不動産などのプラス財産だけではなく、住宅ローンや借金などのマイナス財産も含みます。

3.遺産分割協議
遺産の分割方法を決めます。必ず相続人「全員」の関与が必要です。
財産の多い少ないは関係ありません。
通常、遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名し、実印で押印します(印鑑証明書添付)。

4.相続財産の分配
遺産分割協議の内容に従い、相続財産の分配を行います。
 

私が業務で直面した上記のケースを使って、遺産分割協議がスムーズに進まない例を解説します。

【ケース1】行方不明の相続人がいる
戸籍を辿って住民票上の住所地を見つけ出したとしても、そこに必ずいるとは限りません。
このような場合は、家庭裁判所に相続財産管理人の申立てを行うことになります。
 
【ケース2】相続人の一部が海外にいる
相続人全員が、遺産分割協議の内容に合意したとしても、遺産分割協議書を海外に送付したり、現地の日本領事館でサイン証明の発行を依頼したり、と日本国内に相続人がいる場合と異なり、時間と費用が余計にかかります。
 
【ケース3】相続関係が複雑
次のような場合には相続関係が複雑となることが多いです。
①婚姻と離婚または養子縁組と離縁を繰り返している
②相続人が知らない相続人がいる
③相続人の中に既に死亡した方がいる

相続人を確定するにあたり、まずは被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍を集めます。
相続関係が複雑になればなるほど、取得する戸籍の数が増えるため、なかなか相続人が確定できないことがあります。
また、相続人が確定できたとしても、知らない相続人の出現により遺産分割協議がまとまらないリスクも生じます。
 
【ケース4】相続人の判断能力の低下
特に、お子さんがいらっしゃらない高齢者の方の相続手続に多いのですが、遺産分割協議をするためには判断能力が求められます。
しかし、認知症などで判断能力が十分ではない相続人がいると、遺産分割協議が進まないことがあります。
その場合、その判断能力が十分でない方のために後見等の開始審判の申立てを家庭裁判所に行いますが、時間と費用がかかる上に、当初予定していた遺産分割協議の内容の修正を要求される場合もあります。
 
【ケース5】遺産分割協議がまとまらない
いわゆる「争続」問題です。
遺産について、相続人同士が主張し合って、妥協点が見つけられない場合は、遺産分割協議が長期化します。
相続人間で遺産分割協議がまとまらなければ、家庭裁判所に対して、遺産分割調停を申し立てることになります
(遺産分割調停や審判の内容に納得がいかなければ、地方裁判所で裁判することになります)。
無事に解決に至ったとしても、遺産分割協議のために時間と費用がかかる上に、相続人間の関係性は通常破綻すると考えられますので、後味の悪い結果しか残りません。

遺言書があれば・・・

もちろん100%トラブルを防ぐということは不可能ですが、遺言書があれば、上記の問題に対してスムーズに対処できることがほとんどです。
特に、公正証書で遺言書を作成された場合、家庭裁判所の検認手続きが不要となりますので、相続人全員を調査必要がありません。
また、遺言書があることで遺産分割協議をせずに遺産の承継が可能になります。
(ただし、遺言書に記載されていない相続財産(遺産)があれば、その範囲で遺産分割協議は必要となります。)
 

大切な方のために

相続は、すぐそこにあるかもしれませんし、10年、20年先かもしれません。
一番大事な点は、相続開始(死亡)してからでは対策が立てられない、ということです。
また、相続開始前であったとしても、判断能力が低下してからでは対策できない場合がほとんどです。

「まだまだ元気だから大丈夫!」と思わず、一度、ご自身の大切な方のために遺言書の作成を検討されてみてはいかがでしょうか?
 
なお、遺言書は要式行為(法律で形式や遺言できることが決まっている)です。
遺言書の種類や書き方については、また別のコラムでお話しします。

この記事のライターをご紹介

染田 直樹 (ソメダ ナオキ)

司法書士

染田司法書士事務所 代表司法書士(簡裁代理関係業務認定1312102号)
大学卒業後、約12年にわたり三菱商事系列の医療・介護業界の商社及びシステム会社(東証一部)に勤務。
平成25年、司法書士登録。
「登記だけじゃない司法書士」として、神戸市東灘区において司法書士事務所を開設(JR住吉駅より北に徒歩5分)。
依頼者の方との会話を大切にして、潜在的なニーズを一緒に考えて行動するをモットーに、日々依頼者の問題に体当たり。

兵庫県司法書士会所属
公益社団法人 後見センター・リーガルサポート 会員
法テラス契約司法書士
兵庫県立芦屋高等学校卒業、甲南大学経済学部卒業

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