介護訴訟をどう防ぐ?????? 日経ヘルスケア2019.10記事からの考察

利用者さまやご家族さまの権利意識の高まりを受け、介護事業者へのクレームやトラブルは多くなっている感は否めません。
紛争や訴訟になる前にいかに食い止めるかの心構えが重要になっています。

実際には、介護事業者向けの損害保険を販売するあいおいニッセイ同和損害保険によると、支払額は3%程度減少しているが、件数は微増とのこと。
保険金ベースでみると10万~50万円程度の少額の件数がふえ、高額支払いの件数は10%以上減少しているそうです。

少額件数の支払いが多いのは、ご利用者様、ご家族様の権利意識の高まり、高額支払いの減少は介護事業者のリスクマネジメントの向上効果と言えるようです。

紛争・訴訟を防ぐために日頃から心がけること。

私がコンサルティングしている事業所でも事故が起こったこともあり、紛争・訴訟を防ぐための日頃からの心がけを重視しています。

日経ヘルスケア2019.10の記事「事故を訴訟に発展させない」から事故時の初期対応について日頃から想定しておくことをご紹介しましょう。

1.先回りの説明と情報共有
サービス契約時や施設入所時に下記の項目などを説明しておく
・自宅で起きることと同じことが起き得ること
・認知症や心身の衰弱による事故を100%防ぐのは難しいこと
・状態改善への期待に対し、できることできないことの説明
・事故が起きた場合の事業者側の対応
・事故が起きた場合、損害保険会社の調査などに協力してもらうこと

上記に関しては、「利用時リスク説明書」等のペーパーを作り、ご説明の上、ご家族に署名・捺印していただくことも必要かもしれませんね。

2.家族とのコミュニケーション
同居の家族だけでなく、遠方の親族などとも入所前からコミュニケーションを取っておく

3.法的責任が認められないレベルの対策を講じておく
夜間の巡回、離床センサーや手すりなどの住環境整備も万全にし、行った対策をしっかり記録しておく

4.「記録」の際の注意
・家族や第三者への開示の可能性があることを意識
・利用者ごとに日誌、ファイルを分ける
・記録の日時、記録者の名前の正確な記載
・「既に行った」ことと「これから行う」ことの書き分け
・ケアプラン、サービス計画との整合性

まずは、「事故は起こりえる」ということを前提に、それに備えるための心がけが必要ですね。
(※図は「公益社団法人全国老人福祉施設協議会 誤嚥に関する介護事故予防と事故発生時の対応の方針(詳解)より抜粋)

介護事故の対応の流れ。

訴訟になった場合、訴訟対応にはかなりの時間と労力がとられますし、場合により高額な損害賠償支払いを求められる場合がある等、事業者にとって被る影響は大きいものになります。

訴訟に巻き込まれた場合にどんなことが起こるのかをご存じない介護事業者も多いでしょう。

損害賠償訴訟請求の被告となった場合に、勝っても得るものはありません。経営合理性を考えたら、訴訟のリスクをできるだけ小さく抑える努力が必要と、同誌でも説明されています。

そこで同誌では、介護事故の対応の流れをコンパクトに説明頂いています。

介護事故対応の流れ
1.応急処置・救急搬送
2.自己の記録化
3.利用者や家族との面談と同義的謝罪
4.介護保険課などへの届け出、警察対応
5.お見舞いや入院などのサポート
6.原因の調査
7.再発防止策の検討
8.法的対応の確認
9.保険会社との調整(保険利用時)
10.被害者・遺族への説明、丁寧な交渉
11.示談・和解文書の取り交わし

また、ご利用者さまの担当ケアマネジャーとの関係を日頃から良好に保っておくことで、利用者に関する情報をしっかり伝達してもらうことも大切です。
このような関係を築いておけば、万一、事故が起こった場合でも、「あそこの事業所はしっかりされているから」とフォローしていただけるかもしれません。

初期対応はまず道義的謝罪から

自己に対する初期対応で最も懸念することは「謝罪したら責任を認めることになるのでは」という不安です。
そのために、「謝罪」という最も大切なステップに踏み出せない事業者も多いのではないでしょうか。

同誌では、弁護士の見解として、「事故が起きた際に謝ったことだけをもって、法的な責任が確定するものではない」としています。
謝罪には3段階あり、レベル1の「共感の意思表明(不快な思いをさせたことへのお詫び)」、レベル2の「道義的責任を認める意思表明」、レベル3の「法的責任の承認」があり、レベル2の道義的責任を認める意思表明までであれば、むしろ訴訟リスクの回避にもつながるようです。

道義的責任を認める謝罪表明の例として、同誌では以下の事例を紹介しています。

事業者「私どもがついていながら、このようなことになってしまい、本当に申し訳ありません。」
御家族「法的責任を認めるという事か!!!!」
事業者「今回の事故が起きたことについては、心から申し訳なく思います。ですが、法的責任の所在は別途正確に検証すべき問題だと理解しております。法的責任については、ご契約の際にご説明した通り、私どもの調査を行う運びとなります。御家族の方でも手続きがいくつか必要となりますので、御協力をお願いします」
(※老施協「誤嚥に関する介護事故予防と事故発生時の対応の方針」より引用)

まずは謝罪することによって、ご利用者様ご家族様の怒りを鎮めることが最も重要ですね。

また、事業者にとって重要なのは、「職員を矢面に立たせない」こと。
経営面を統括する組織が前面に立ち対応を行い、職員さんを守ることも大切ですね。

誤嚥、転倒、骨折。医療介護事業者には日常茶飯事で起こりえるリスクです。
運営面で防ごうと思っても、車椅子ご利用者さまが急に立ち上がり、ヨロヨロッと歩いて転倒する、このように事故は防ぎようにないのも事実。
介護事業者は、「事故は起こるもの」という認識のもと、日頃から準備しておくことが大切ですね。
(※図は「公益社団法人全国老人福祉施設協議会 誤嚥に関する介護事故予防と事故発生時の対応の方針(詳解)より抜粋)

この記事のライターをご紹介

佐久間信二 (さくましんじ)

介護事業研究所所長

昭和63年関西学院大学卒業
某大手企業の介護事業子会社の設立・運営に携わり、経営者として売上高20億円企業にまで成長させる
現在、個人で介護事業研究所を設立。個人の皆様に介護事業所の運営・経営に関し情報発信を実施。

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