障がい者虐待について正しい知識~施設従事者による虐待~

障がい者施設での虐待

2016年7月,障がい者福祉施設「津久井やまゆり園」において,元施設職員が夜中に施設に入り,19人もの障がい者を殺害した事件は,まもなく3年が経とうとしている今でも人々の記憶に新しいものではないでしょうか。

なぜあのような事件が起きてしまったのでしょうか。

上記事件を通して元施設職員のこれまでの言動などを見てみると,障がい者に対する虐待につながる考え方が浮かび上がってきます。

何が原因なのでしょうか。
どうしたら防ぐことができるのでしょうか。

今回は,障がい者虐待のうち,施設従事者による虐待に関する基本的な知識を,当該事件にあてはめながらお伝えしたいと思います。

施設従事者による障がい者虐待の状況

平成29年度における厚生労働省の調査によると,
相談・通報は2,374件(前年度2,115件),うち虐待の事実が認められた事例が464件(前年度401件)となっています。
被虐待者の数は,666人となっています。

また,平成29年度における,施設従事者等による虐待の発生原因は,

教育・知識・介護技術等に関する問題・・・59.7%
倫理観や理念の欠如・・・53.5%
職員のストレスや感情コントロールの問題・・・47.2%
人員不足や人員配置の問題及び関連する多忙さ・・・19.6%
虐待を助長する組織風土や職員間の関係性の悪さ・・・19.1%

となっています。
 

障がい者施設従事者における虐待の具体例と理解するポイント

障害者虐待については,障害者虐待の防止,障害者の養護者に対する支援等に関する法律(以下「障害者虐待防止法」という)が2011年6月に成立し,2012年10月に施行されています。

上記障害者虐待防止法に定められている虐待類型とその具体例をまずはご紹介します。

⑴身体的虐待
・平手打ち,殴る,蹴る,壁にたたきつける,つねる,無理やり食べ物や飲み物を口に入れる,やけどさせる
・身体拘束(車いすやベッドに縛り付ける,手指の動きを制限するためミトンをつける,支援者が自分の身体で利用者を押さえつけて行動を制限する,利用者を落ち着かせるため向精神薬を大量に投与するなど)
 身体拘束には,「正当な理由なく」との要件があり,切迫性,非代替性,一時性の3要件を備えているか判断することになります。詳しくは,身体拘束ゼロの手引き(厚生労働省 平成13年3月)参照。

◆実際に,障がい者福祉サービス事業を営む法人と契約を締結していた入所者が,押さえつけにより死亡したとして,入所者の家族が施設及び職員に対し損害賠償請求を行った事件(大阪地方裁判所平成27年2月13日判決)が発生しています。

⑵性的虐待
性交,性器への接触,性的行為の強要,裸にする,キスする

◆障がい者福祉施設における性的虐待の特徴として,他の虐待よりも一層一目に付きにくいところを選んで行われる傾向があったり,被害者やその家族が人に知られたくないという思いから告訴・告発や通報・届出に踏み切れないケースが多いと言われています。

⑶心理的虐待
「バカ」「アホ」等の言葉を浴びせる,怒鳴る,仲間に入れない,どうせ一人でできないと決めつける,明日から世話してやんないと脅すようなことを言う。

⑷介護・世話の放棄,放任(ネグレクト)
十分な食事を与えない,汚れた服を着せ続ける,爪や髪を伸び放題にする,他の利用者による虐待の放置

◆平成29年7月14日付報道によると,送迎用のワゴン車において,男性利用者が車から降ろされるのを忘れられ放置された結果,熱中症で死亡した事件が発生しています。

⑸経済的虐待
日常生活に必要な金銭を渡さない,使わせない,本人の同意なしに財産や預貯金を処分・運用する

◆利用者から預かった現金や預貯金の流用等が多く,また利用者家族による引き出し要求に漫然と応じ,利用者と無関係の使途に使用された場合に事業所が障がい者の財産を不当に処分したと認定される可能性もあります。

 

原因の分析

施設従事者による虐待の原因には次のようなものが考えられます。

⑴技術・知識の不足
 障がい者の特性に対する理解やその対処の仕方を正しく習得できていないことは,安易かつ行き過ぎた身体拘束につながります。

⑵障がい者に対する差別・偏見
 障がい者の人権についての理解がないまま,障がい者なんていなくなればいいという考えを持つ人が存在します。津久井やまゆり園の事件を起こした元職員はまさしくそのような考えでした。

⑶ストレスや感情コントロールの失敗
 虐待をした人が自己分析として挙げるのは,利用者がいう事を聞いてくれずついカッとなったなどというもの。思い通りにならずにイライラしたというものですが,そもそも他人は思い通りにはならないもの,どこかで障がい者は自分の思い通りになって当然であるという考えが存在し,また障がい者はどうせこれしかできない,とか自分の言うことに従っていればよいという独りよがりな考えがないか,見直してみなければいけません。

⑷過度な後見的介入と意思決定支援の欠如
利用者にとってこれが一番と自分の考えを押し付けていないでしょうか。
施設従事者は,障がい者の自己決定の尊重のため,本人の意思の確認や意思及び選好を推定などの意思決定支援を行うことが大切です。

⑸利用者や家族の意識
施設よりも下位である,お世話になっているとの認識から,職員の顔色をうかがいながら生活し,また虐待と疑うことで今後のサービス利用に支障が出てしまうのではないかと危惧し,何も言えないという場合もあります。
あくまで施設側と利用者は対等な契約者であるということを考えの根底に置いておく必要があります。

⑹組織上の問題
組織の閉鎖性,慢性的な人員不足,業務手順の不徹底,上司や同僚に相談しにくい環境,これらも要因となりえます。

そして,大きな虐待事件が起こる前には虐待の予兆とも言うべきことがかならず起こっています。

◆津久井やまゆり園事件
平成28年7月26日 事件が発生
平成28年2月18日 職場の同僚に対し「重度の障がい者は死んだ方がいい」などと暴論を述べ,入居者に毒づい                 
           た。
平成25年3月    男性入所者の手にペンでいたずら書きをして先輩職員から厳しく注意を受けていた。

同事件を起こした元職員は,このように,障がい者に対する考え方や行動に大きな問題がありました。

虐待を予防するために

まずは,障害者の人権についての理解が必要となります。

障害者の権利・利益とは,個人の尊厳・幸福追求権(憲法13条)の中核をなす権利で,
自分が暮らしたい地域で暮らし,住み慣れた地域で一生を終える権利,年齢や障がいの有無にかかわらず,地域社会において,人と人とのつながりの中で,自分らしい生き方を求める権利とされます。

高齢者も障がい者も,そうでない人と同様に,基本的な人権を有していることに変わらず,それぞれが尊重されるべき存在であるといえます。

また,虐待かもといった予兆を見逃さないため,虐待とまで言えるか微妙な不適切ケアや,ヒヤリ,ハッとした事例についても,職員間で共有し,①情報収集,②原因の解明,③対策の策定,④防止策の周知徹底,⑤再評価のサイクルを繰り返すことが大切です。

私の知り合いで,障がい者福祉施設で働く方がいますが,たしかに業務はしんどいことも多いけれど,障がい者の方と一緒にできないことができるようになった喜びを分かち合える瞬間がうれしいと言っていました。

二度と悲しい事件が起こらないように,施設及び職員が障がい者の特性を理解し,お互い尊重しながら,障がい者が自分らしく過ごせる施設が増え,虐待が減っていく未来を期待します。

この記事のライターをご紹介

龍村昭子 (タツムラアキコ)

弁護士

平成23年 神戸大学法学部卒業
平成25年 神戸大学法科大学院卒業,司法試験合格
平成26年 大阪弁護士会弁護士登録, 弁護士法人淺田法律事務所にて勤務開始
(取り扱い分野)一般民亊・家事・企業法務など幅広いですが,分野を問わず高齢者やそのご家族の方からの相談が全体的に多いです。
(委員会活動)高齢者・障害者総合支援センター運営委員会委員として,特に高齢者や障がい者の虐待に関する問題に取り組み,ご本人のみならず,介護施設やケアマネ―ジャーなど支援者の方に対する法律相談や研修などを行っています。

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