親のルーツをたどる旅

先月、奈良に住む60代半ばの独身男性と男性の父親のルーツをたどる旅をした。
男性は父のルーツを確かめたいと思い立ったものの、今となっては両親、兄も他界し親戚付き合いもない。
ただ男性には50年余り前、父と兄に連れられ愛媛県八幡浜にある祖母の家に行った記憶がある。


男性の両親は大分県別府で結婚し、男性は別府で生まれ育った。
父は仕事をせず酒に溺れ暴力が絶えなかったため母は離婚し家を出て行った。
男性は19歳の時、父から逃れ大阪で住み込みの仕事を見つけ移り住んだ。
のちに父は肝硬変で亡くなるまで14年間入院し、男性は年2回は別府の病院にいる父を見舞った。
そんな父だったが、祖母の家から父と兄と手をつないで近くのお寺へ墓参りに行った温かな思い出があった。


古い戸籍を頼りに街中にある祖母の家があったらしい場所にたどり着いた。
寿司屋の看板がかかっているが留守のようだ。
周囲の建物もすっかり建て代わり男性の記憶には全く響かない。
近隣の商店を尋ねてみたが明治に生まれて昭和35年頃に亡くなった祖母を知る人をたどるには遅過ぎた。
残念な思いで男性の更なる記憶を確かめながら古びた商店街を歩き始めた。



次の記憶をたどる先は、町の商店街を抜けた小高い山の上にあるお寺。
商店街を抜けたところで口数の少ない男性が思い出したように叫んだ。
ここだ!見たことある!
山門に通じる直線の石段とぐるっと斜面を回って登る道路の光景が男性の記憶を蘇らせた。
石段を上がると立派な本堂と鐘楼、いくつかの古いお堂がある。
背後は視界が開け町を見渡すことができる。
住職に無理を言って過去帳を見せてもらった。

しかし祖母や父の名前は見当たらなかった。
それでも男性は幼少期の思い出の場所に来れて満足していた。
これまで何度も来たいと思ったことがあるが、若いときは仕事が忙しいしお金の余裕もなかった。
もっと後だと足腰が辛くて来れなかったかもしれない。
今回思い切って来て良かったと話した。



男性は、家族も友人もなく寂しいという。
奈良の住まいは亡くなった母が建てた家だ。
奈良にも別府にも頼れる身寄りはないが、同じ寂しい場所なら生まれ育った別府で暮らしたいと考えている。
潮の香りと温泉の香りが漂う別府の空気の中にいるととても気分が落ち着くのだそうだ。

男性にとって幼少期に過ごした故郷の思い出は今も心の拠りどころになっている。
 

この記事のライターをご紹介

高嶋康伸 (タカシマヤスノブ)

ソーシャルワーク・アドベンチャー 代表 ホームソーシャルワーカー

1969年生まれ。1991年 そごう(現そごう・西武)入社。百貨店外商の経験から高齢者や障害者の生活ニーズに行き届かない社会システムに疑問を感じ、社会福祉に関心を持ち始めた。2000年 特別養護老人ホームに転職。2002年 高齢者と障害者の外出・生活支援事業を起業。2003年 社会福祉士登録。ホームソーシャルワーカーは、かかりつけ医の社会福祉士版。元気なうちから生涯にわたり、秘書や執事のように生活全般にわたるサポートをおこなう。いつまでもその人らしく元気に生きてもらえるよう、特に旅行や外食など楽しみ、希望実現の支援を得意としている。

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