高齢者虐待についての正しい知識②~施設従事者による虐待~

施設従事者による虐待?

前回,ご家族等による虐待について,その数や要因,具体的な事例などをご紹介しました。

今回は,養介護施設(有料老人ホーム,特別養護老人ホームなど)において,その職員などによる虐待について取り扱いたいと思います。

近年有料老人ホームの入居者が転落死し,職員が逮捕された事件や,
障害者施設における元職員による殺人事件など,施設職員等による虐待に関する報道も目立っています。

なぜこのような事件が起こるのでしょうか。

今後ますます高齢者施設の需要が高まる中で,施設従事者による虐待は防ぐことができないのでしょうか。
 

施設従事者による虐待件数と発生原因

まずは,前回のように,虐待の対応件数からご紹介します。

厚労省の調査によると,
     
        相談通報       虐待認定
平成18年度  273件       54件
平成19年度  379件       62件
平成20年度  451件       70件
平成21年度  408件       76件
平成22年度  506件       96件
平成23年度  687件       151件
平成24年度  736件       155件
平成25年度  962件       221件
平成26年度  1120件      300件
平成27年度  1640件      408件

となっており,年々増加しています。

また,平成27年度における,施設従事者等による虐待の発生原因は,

教育・知識・介護技術等に関する問題・・・65.6%
職員のストレスや感情コントロールの問題・・・26.9%
虐待を行った職員の性格や資質の問題・・・10.1%

となっています。 
 

養介護施設従事者による虐待の具体例と虐待と理解するポイント

虐待類型としては,以前ご紹介した高齢者虐待防止法に基づく5類型と同じですが,
今回は,特に施設従事者による虐待事例として特徴的な具体例をご紹介します。

⑴身体的虐待
(身体拘束)
・他人への迷惑行為を防ぐために,ベッドなどに体幹や四肢をひもなどで縛る。
・行動を落ち着かせるために,向精神薬を過剰に服用させる。
・自分の意思で開けることのできない居室等に隔離し,外から施錠する。

※ただし,上記のような身体拘束については,①そうしなければ利用者やその他の利用者の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと(切迫性),②身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと(非代替性),③身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること(一時性)との要件を満たせば違法性が阻却されることがあります。
また,その場合にも,手続的要件として,施設内で複数の者による検討と施設としての判断,本人や家族に対する説明と納得,記録の作成が必要とされています。

(身体拘束以外)
・入浴時,熱い湯やシャワーをかけてやけどをさせる
・介護がしやすいように,職員の都合でベッド等へ押さえつける
・食事の際に職員の都合で,本人が拒否しているのに口に入れて食べさせる
など

⑵介護放棄
・おむつが汚れている状態を日常的に放置している
・褥瘡(床ずれ)ができるなど体位の調整や栄養管理を怠る
・処方通りの服薬をさせない
・ナースコールを使用させない
・他の利用者に暴力を振るう高齢者に対して何ら予防手立てをしない
など

⑶精神的虐待
・怒鳴る
・ここにいられなくしてやる,など脅す
・排せつ介助の際「くさい」「きたない」など言う
・子ども扱いするような呼称でよぶ
・トイレが使用できるのに,本人の意思や状態を無視してオムツを使う
・自分で食事ができるのに,職員の都合を優先し,本人の意思や状態を無視して食事の全介助をする
など

⑷経済的虐待
・利用者から預かったお金を勝手に使う
・日常的に使うお金を不当に制限する,生活に必要なお金を渡さない
など

⑸性的虐待
・排せつや着替えの介助がしやすいという目的で,裸にしたり,下着のままで放置する
など

虐待に当たるか否かのポイントは,自分だったらどう感じるか,高齢者の立場に立って考えることです。

たとえば,食事の際,本当はまずは野菜にドレッシングをかけて食べて,お肉を食べて,最後に味噌汁を飲みたい・・と食べる順番やこだわりがあるのに,
職員が時間がないからと,勝手にまず味噌汁を飲ませ,野菜にはマヨネーズをかけて食べさせ,お肉を最後に食べさせるといった食事介助をしたらどうでしょうか。

食事は人生における重要な楽しみの一つ,それを職員の都合で自由に順番も決めれないのは精神的な虐待に当たる可能性がありります。

また,オムツの交換をしてもらう際,ただでさえ恥ずかしいから早くしてほしいのに,他の職員と談笑したら,別の作業をするためにしばらく放っておかれたらどうでしょうか。

これも精神的虐待に当たる可能性があります。

考え方の基本としては,個人の尊厳と自己決定権の尊重(憲法13条)です。
すなわち,利用者に対する具体的敬意があるか,利用者の意思を尊重しているか,を考えなければなりません。

虐待を予防するには?

虐待の要因のなかには,ストレスの問題も要因としてありました。
確かに,人手不足と言われるなか,施設従事者は疲れでストレスがたまってしまっているかもしれません。

たとえば,夜勤中利用者の部屋に行ったら,おむつがベッドに投げられていたのを見て,いらっとした。
そこで「きたねえなババア」と言葉を発したという事例がありました。

しかし,その言葉はストレス以前に,そもそも利用者への軽蔑の気持ちがあったから出てきたのではないでしょうか。普段からその利用者に対し具体的敬意があれば,そのような言葉は出てこないのではないのでしょうか。

養介護施設従事者の虐待を予防するには,
・虐待に関する研修などにより,具体的な事例を検討し,虐待についての考え方を理解すること
・虐待やそれに近い不適切なケアが起きてしまったら,サービス担当者会議等により,その要因を分析し,解消方法を探ること
・それって不適切じゃないかと職員同士で言い合える関係をつくること

などが必要です。

私はこれまでいくつかの施設をご訪問して,虐待に関する研修をさせて頂きましたが,
施設従事者の方々は,日々悩みながらも丁寧に業務を行っていらっしゃることが分かりました。
また,これも実はよくなかったかもと自身の介護方法について改めて見直された方もいらっしゃいました。

利用者の個人の尊厳を具体化するため,
例えば利用者の問題行動ばかリに着目するのではなく,

利用者のお話をじっくり伺ったり,得意なことを見つけたりすることで,利用者の価値や自尊心を理解し,
利用者との信頼関係が築け,問題行動の原因の解消にもつながるかもしれません。

施設全体が虐待予防に取り組むことで,,
利用者も,施設従事者も,気持ちよく過ごせる施設がこれからどんどん増えればよいなと思います。

 

この記事のライターをご紹介

龍村昭子 (タツムラアキコ)

弁護士

平成23年 神戸大学法学部卒業
平成25年 神戸大学法科大学院卒業,司法試験合格
平成26年 大阪弁護士会弁護士登録, 弁護士法人淺田法律事務所にて勤務開始
(取り扱い分野)一般民亊・家事・企業法務など幅広いですが,分野を問わず高齢者やそのご家族の方からの相談が全体的に多いです。
(委員会活動)高齢者・障害者総合支援センター運営委員会委員として,特に高齢者や障がい者の虐待に関する問題に取り組み,ご本人のみな
らず,介護施設やケアマネ―ジャーなど支援者の方に対する法律相談や研修などを行っています。

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